
著者プロフィール
田代尚機
1984年大和証券入社。その後、大和総研に出向。1994年より大和総研の代表として北京に駐在、以後中国株アナリストとして各メディアで活躍する。 2003年内藤証券入社、中国部長に就任。現在、中国経済アナリストとして中国市場を分析している。

日本の高度経済成長時代。それは、生産力が戦前の最高水準を回復した1955年から、GDPがマイナスに転じた74年までの約20年間を指す。この間、政府の産業政策や行政指導のもとに、民間設備投資が急拡大し、生産が飛躍的に伸びた。都市化が進み、衣食住が劇的に変化した。多くの人が希望に満ち溢れ、心の豊かさを実感できた時代である。東京オリンピックは高度経済成長の象徴として日本人の心に強く焼き付いている。
だからなのだろう。日本人はオリンピックを過大評価してしまうようだ。未だに多くの人が、“現在の中国経済の発展はオリンピック開催のためのインフラ投資によってもたらされている”と考えている。だからオリンピックが終われば“不況に陥る”とか“株は暴落する”とか思うようである。オリンピックの経済効果は小さい。だから、オリンピックが終わったからといって、景気が悪くなったりはしない。
これまでオリンピック開催で恩恵を受けると予想される企業を相当数取材した。不動産、空港、エアライン、インフラ、素材、消費、広告に至るまで、H株企業、レッドチップ企業、B株企業に加え、A株企業まで取材した。だが、各社IR担当者の反応は今ひとつ。多少の違いはあるが、彼らの意見を総じていえば、“オリンピックによる業績牽引効果は限定的である”ということだ。
2001年の段階で、北京市政府は向こう5年間でインフラ建設に1,800億元を投入すると発表している。これはスポーツ施設の改修・建設、空港の拡張、高速道路、都市交通、地下鉄などの整備費用である。このほか、大気汚染防止、ごみ処理、汚水処理、砂嵐防止事業など環境対策として450億元を投じる計画。老朽家屋の改造などを含めると、開催までの7年間で総額2,800億元が支出されるそうだ。
総額2,800億元を1年当たりにすれば400億元に相当する。これは名目GDPと比較すれば0.3%に過ぎない。当時の国家統計局の叶震・報道官は、北京オリンピックによってGDPは年率0.3〜0.4%程度押し上げられると発言しており、また各欧米系証券会社のアナリストたちの予想も同程度であった。オリンピックをテーマに消費関連企業が活発な営業活動をするだろうが、それもせいぜい“誤差の範囲”であろう。
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