
著者プロフィール
田代尚機
1984年大和証券入社。その後、大和総研に出向。1994年より大和総研の代表として北京に駐在、以後中国株アナリストとして各メディアで活躍する。 2003年内藤証券入社、中国部長に就任。現在、中国経済アナリストとして中国市場を分析している。

こうして考えてみると、米中間の貿易不均衡を解消するのは、並大抵ではない。正論をいえば、中国はWTO加盟国であり、自由貿易体制の確立に努めなければならない。実質的に政府が決定権を持つような為替制度は、自由で公正な制度とはいえない。中国は、今や経済規模で第4位、貿易規模で第3位の大国である。為替制度としては、アメリカ、日本、EUなど多くの先進国が採用する変動相場制を採用すべきである。
人民元を完全兌換通貨とし、変動相場制に移行する。そうすれば、人民元は急騰する。しかし、そうしなくても、人民元はわずかに開いた市場を通して、じりじりと押し上げられる。現在、中国では、貿易、対内直接投資は大幅な黒字。これらのルートを通じて大量の外貨が流入している。一方、海外への金融投資は厳しく制限されており、また、政府は奨励するものの、中国企業の海外投資はなかなか増えない。
海外からの金融投資も厳しく規制しているが、世界中の人々が人民元は安すぎると思っている以上、対内直接投資に紛れ込んで、または親族への送金を通じて、外貨は国内に入り込んでしまう。流入する一方の外貨を人民銀行が無制限に買い上げていれば、国内金融市場は深刻な過剰流動性に陥ってしまう。その結果、不動産、株などの資産価格が上昇し、企業の設備投資が過熱する。
変動相場制に移行しなければ、その代償として過剰流動性が発生してしまう。それを解消するために、政府がコントロールしながら、少しずつ海外への資金流出規制を緩和している。一方で、海外からの資金流入については規制を強める。過剰流動性によって発生してしまう不動産バブル、株式バブル、過剰投資については、市場メカニズムでは調整できず、政府が直接コントロールせざるを得なくなっている。
人民元は政府が如何に抵抗しようともいずれは、適正水準まで上昇する。ゆっくり上昇するか、急激に上昇するかの違いである。あまり遅ければ、自由貿易体制自体が揺らぐことで、中国の輸出産業が大きな打撃を受ける。為替の自由化を急ぎ、人民元を急激に上昇させてしまえば、アジア通貨危機の“二の舞”となる。とはいうものの、米中ともに“大人の大国”である。極端なことは起きないであろう。ならば我々は自信を持って人民元資産に長期投資できよう。
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