田代尚機のweb連載

帰ってきたレッドセンセーション
−オリンピック後の中国を読み解く−

田代尚機

著者プロフィール

田代尚機

1984年大和証券入社。その後、大和総研に出向。1994年より大和総研の代表として北京に駐在、以後中国株アナリストとして各メディアで活躍する。 2003年内藤証券入社、中国部長に就任。現在、中国経済アナリストとして中国市場を分析している。

第17回 チベット騒乱について考える(前半)

 1999年12月、1週間かけて、チベットの主要3都市(ラサ、シガツエ、ギャンツェ)を訪問した。目的は、日本国大使館が行う“草の根無償資金協力”に関する事前調査。教育施設の状況、生活の実態などを調査し、教育機関を支援すべきかどうかを判断する際の基礎的データを提供した。当時、政府関係者や一部の貧しい住民を中心に、多数のチベット人と話をしている。以下の内容はそのときの取材をもとにしたものである。

チベットの風景

 かつてチベット仏教にはいくつかの宗派があり、それらが勢力を競い、反目しあっていたそうだ。1951年の併合以前のチベットにおいても、形式的にはともかく、実質的には、ダライ・ラマを頂点とするまとまりのある組織であったと断定しきれない状態であったようだ。別の調査で、青海省のチベット人と話す機会があった。かれらが言うには、そもそもチベット自治区のチベット人とは言葉が通じないそうだ。

チベットの子供たちと

 当時のチベットは、一部の高僧が支配する仏教寺院を頂点とする封建社会であったようだ。“農民は仏教寺院に支配される奴隷であった”。現地のチベット人からはそのように説明を受けた。農民は一様に貧しく、現世での幸せは望むべくもない。来世での幸せを求め、一生を信仰にささげたという。見る側の視線の問題かもしれないが、あえて言えば、当時の農民の生活は自由で健全なものであったとは到底思えない。

勉強をするチベットの子供たち

 衝撃的であったのは、教育の必要性である。現在でも、貧しさが原因で多くのチベット人は満足な教育が受けられない。教育が受けられなくて一番困る点は“やる気”が起きないこと。“人生の目標を立て、一生懸命努力すること”ができない。迷信や宗教を妄信してしまえば、すべてが他力本願となる。十分な教育を受けない限り、かれらが自らより良い生活を求めたり、自由を求めたりすることすらできないのである。

 その教育に力を注いでいるのが中国共産党である。チベットの自然条件は、産業を興すにはあまりに過酷である。域内で徴収される税金は極めて少なく、十分な教育費、医療費は得られない。生活水準を高めるために必要なインフラ投資も同様である。共産党は、上海、北京、広東省などの裕福な沿岸地域で徴収される税金をこうした地域に回すことで、懸命にチベットの社会を近代化させ、経済を発展させようとしている。

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