タイ株のリスクとして真っ先に浮かぶのは、度重なるクーデターに象徴される「政治不安」ではないでしょうか。事実タイでは、第2次大戦後、失敗したものも含めて17回のクーデターが起こっています。
クーデターというと国の体制ひっくり返る血なまぐさいイメージがありますが、タイの場合、それとはすこしニュアンスが違っています。特に最近のクーデターは、「体制転覆」というより、「力による政権交代」に近い傾向があります。
例えば、直近のクーデターとして2006年9月のクーデターが上げられますが、このときも当時のタクシン首相が国外追放されただけで、武力衝突は一切ありませんでした。
このクーデターのとき、アジアンバリュー代表の山野は実際にバンコクにいましたが、そのときの様子を「やはり気が抜けない感じはあるが、街中には生きる死ぬのような切迫した感じはなかった」、また「“また起こったか”“やっぱり起こったか”といったうんざりした空気も結構あった」と述べています。
タイ国民にとってのクーデターは、昔ならいざ知らず昨今は、日常茶飯事とはいわないまでも「ちょっとハードな政権交代」という“お約束”に様変わりしてきているのです。
では投資家にとって気になる、2006年9月のクーデターはその後どうなったのか?
クーデター後に発足した暫定軍事政権は当初こそ国民から歓迎ムードでしたが、政治運営はもともと素人だったので、時間とともに評判を落としていき、結局早々に手仕舞いすることに。2007年12月には民主化に向けた総選挙を実施し、形を変えた旧与党が勝利し、2008年1月からは民主政権が再び復帰しました。
現在のサマック政権は、発足後、前政権が実現できなかった経済活性化政策を次々と実行し、国内投資家のみならず外国人投資家からも歓迎され、現在に至っています。
クーデターについて我々日本人投資家が注目すべきポイントは、暫定軍事政権下でも成長したタイ経済の「腰の強さ」です。
クーデターが起こるとどこの国でも、これまでの社会の仕組みが一気にかわるし、また国民がそのように認識するため、経済活動は停滞するものです。
しかし前述の通り、タイのクーデターは「政権交代に近い、静かなクーデター」であるため、経済活動を大きく停滞させるこなく、それどころか例年並みの成長率を記録したのです。
さらに驚くべきは、例えば輸出額は、暫定軍事政権下の2007年10月に、過去最高額を記録しています。こういった現象は、通常のクーデター政権では考えられないことで、「タイ経済の腰の強さ」を現しているものといえるでしょう。
では日本人投資家が気になる株式市場への、クーデターの影響はどうだったのでしょうか?
2006年9月のクーデター当日は、さすがにSET(タイ証券取引所)は閉鎖されましたが、翌日は通常通り取引再開。結局その日は、SETインデックス(指数)は前日比でわずか−0.1ポイントの下落で終わりました。
つまりタイの事情を熟知しているタイ人投資家や外国人投資家にとっては、このクーデターがタイ経済に与える影響は限定的だと「折り込みずみ」だったのです。
さらにSETインデックス(指数)は、クーデター暫定政権下10月29日に、1997年アジア通貨危機以降の最高値である915.03ポイントをつけています。